新しいプロジェクトを始める時、私たちはこう考えがちです。
「きっとうまくいく」「みんなで頑張ればなんとかなる」
しかし、心理学者のゲイリー・クラインは、その「ポジティブ思考」こそが失敗の元凶だと断言します。
楽観主義は、致命的な欠陥から目を背けさせます。
本当に成功率を高めたいなら、必要なのは「希望」ではなく「検死」です。
今回は、プロジェクトが始まる「前」に、そのプロジェクトが死んだ理由を解剖する思考法「プレモータム(死亡前死因分析)」を紹介します。
「どうすれば失敗するか?」ではなく「なぜ失敗したか?」
通常のリスク管理では、「何が問題になるだろうか?」と未来形で問います。
しかし、これでは不十分です。人間には「自分は成功するはずだ」というバイアスがあるため、本気で最悪の事態をイメージできないからです。
プレモータムのアプローチは全く異なります。
時間を未来(例えば1年後)に進め、こう宣言することから始めます。
さて、その『死因』は何でしたか?」
「もし失敗したら」ではなく、「失敗した(確定)」という前提に立つことで、脳は「言い訳」をやめ、隠れていた致命的なリスクを具体的に探し始めます。

ノーベル賞学者も認める「後知恵」の魔力
この手法の最大のメリットは、「集団浅慮(グループシンク)」の破壊です。
会議の空気として「この企画いいね!」「やろう!」と盛り上がっている時、一人だけ「でも、こんなリスクが…」とは言い出しにくいものです。
しかし、プレモータムでは「失敗の理由を探すこと」が全員のミッションになります。
「社長の鶴の一声で方向性がブレたから」
「競合が半額のサービスを出してきたから」
「主要メンバーが燃え尽きて退職したから」
普段なら言いにくいネガティブな意見も、「検死報告」という形なら堂々と発言できます。
行動経済学者のダニエル・カーネマンも、「企業が意思決定の質を上げるための、費用対効果が最も高い方法」として、このプレモータムを挙げています。
実践:プレモータムの4ステップ
明日からの会議や、個人の目標設定(ダイエットや貯金)にも使える手順です。
- 死亡宣告:リーダーが「この計画は完全に失敗した」と宣言します。
- 死因の書き出し:数分間、全員が無言で「なぜ失敗したか」を箇条書きにします。(※忖度なしで書くのがポイント)
- 共有と分類:全員の「死因」を発表し合い、ホワイトボードに書き出します。
- ワクチン接種:出てきた死因の中で、特に確率が高く、ダメージが大きいものに対し、今のうちから打てる対策(ワクチン)を決めます。
「雨が降るかもしれない」と心配するのではなく、「雨が降ってずぶ濡れになった」と想像するからこそ、確実に傘を持っていくことができるのです。

まとめ:悲観的に計画し、楽観的に実行せよ
プレモータムは、決して「後ろ向き」な手法ではありません。
未来の失敗を先取りして潰しておくことで、実行段階では迷いなくアクセルを踏めるようにする、「究極の前向きな戦略」です。
あなたの今の目標も、一度「殺して」みてください。
「なぜ挫折したのか?」
その答えの中にこそ、成功への本当の鍵が隠されています。
📚 参考文献・引用元
- ・Klein, G. (2007). Performing a Project Premortem. Harvard Business Review.
- ・Kahneman, D. (2011). Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus and Giroux.